2013年8月29日木曜日
ペロポネソス半島3 エピダウロス4 トロス
アバトン近くの再建中の建物が円形のプランで、トロスと呼ばれるものがある。ギリシアでは円形のものをトロスと呼ぶ。
このトロスこそ、かなり以前に『ギリシア美術紀行』で知った、アカンサスが取り込まれたコリント式柱頭とアカンサス唐草の表された格間の浮彫があった円形の建物だった。
ギリシアで見たいものはたくさんあったが、エピダウロスではこの柱頭と格間で、これらはすでに博物館で見ていた。
それについてはエピダウロスのトロス1 コリント式柱頭へ
そのようなアカンサスのモティーフに満ちていたトロスとはどんなものだったのか、見てみたいと思っていたが、同書の図版では、基礎の部分しか残っていなかったので、期待していなかった。ところが、同書が出版されてから25年ほどたった現在では、再建工事中で、短いが柱も数本立っていた。
⑨トロス 円形堂 前365-335年(『CORINTHIA-ARGOLIDA』より、『ギリシア美術紀行』は前360-320年)
『古代ギリシア遺跡事典』は、アスクレピオス神殿の背後(南西)には、神域のもっとも豪華な建築物として知られる円形堂(トロス)の遺構がある。その中心部の基礎は、迷路状の三重の同半円構造からなっており、何らかの特別な儀式に用いられたと考えられている。堂内には14本のコリントス式円柱がめぐらされ、外側にはさらに三重の同心円の基礎があり、外周に沿って26本のドーリス式円柱が立てられていた。大理石の上部構造に精緻な彫刻装飾が施されたこともあって、建築会計碑文からは、円形堂の竣工までには30年近くを要したことが分かっているという。
足場とロープのために、なかなか列柱が円形に並んだ様子を捉えられない。
近づきすぎると直線的に写ってしまった。
博物館の壁に掛けてあった想像復元図。
外側にドーリス式円柱が並び、環状の壁があって、内室にはコリント式の円柱が巡っている。
この図の右半分の断面図には、地下構造まで描かれている。
『ギリシア美術紀行』は、この円形建築物(トロス)は碑銘記録でテュメレーと呼ばれており、この言葉は普通劇場のオルケストラの中央に設けられた祭壇を意味している。さらに不思議なことにはエピダウロスの円形劇場のオルケストラの直径とトロスのステュロバテスのそれが20.45mと全く同じであったり、しかも両者が建築家ポリュクレイトスという名前で結び付けられていることと相俟って、劇場とトロスとの間にはなにか特別の関係が予想される。トロスの現場にはその地下構造、中心の円形空間の周囲を同心円を描く三重の通路が迷路のように取り巻く石組みがそっくり残っているという。
『CORINTHIA-ARGOLIDA』は、トロスは、地下にも円形の空間のある丸い列柱式建物で、ティメレあるいは祭壇としても知られていた。前365-335年に建築家で彫刻家のポリュクレイトスによって建てられた。建物の上部は地下の3つの同心円の輪の上に置かれていた。外側は26本の石灰岩の列柱の並ぶドーリス式、中央は円形の石灰岩のケラ、内部は14本のコリント式列柱という。
断面図もそのようになっているが、中心部はもっと広いように見える。
これが直径20m余りの劇場のオルケストラと同じ大きさとは。
近くの説明板より、上から見た写真
同じく平面図
『ギリシア美術紀行』は、高さ6.74m、下部直径に対する高さの比10倍と非常にすらりとした、コリントス柱14本を円形にめぐらし、白と黒の菱形模様の石板を敷つめた床をもつトロスの内室の用途もよくわかっていないという。
床がオプス・セクティレという色の違う切石を組み合わせたモザイクのようになっていたらしい。
『CORINTHIA-ARGOLIDA』は、ケラの内側はパウシアスとう画家によって絵が描かれたという。
このパウシアスという画家は、パウシアスのスクロールと呼ばれる唐草文様の名に冠された画家と同一人物だろうか。
エピダウロス3 考古博物館に神殿の上部構造← →ミケーネ1 円形墓域B
関連項目
ギリシア建築7 円形建造物(トロス)
デルフィ1 まずはアテナ・プロナイアの神域から
オリンピア12 オリンピアのトロスはフィリペイオン
エピダウロスのトロス2 天井のアカンサス唐草
エピダウロスのトロス1 コリント式柱頭
エピダウロス2 アスクレピオスの神域
エピダウロス1 大劇場
アカンサスの葉が唐草に
イストミアのガラス・モザイク・パネル
2-5 パラティーノの丘、ドムス・アウグスターナ
2-7 パラティーノの丘の小さな博物館
※参考文献
「ギリシア美術紀行」 福部信敏 1987年 時事通信社
「CORINTHIA-ARGOLIDA」 Elsi Spathari 2010年 HESPEROS EDITIONS