2011年2月6日日曜日

9-3 サンタ・コスタンツァ廟(Mausoleo di Santa Costanza)、周歩廊の天井モザイク1

サンタ・コスタンツァ廟は円形ドームの周囲に歩廊が巡っている。
平面図を見ると、2本の円柱が12組、等間隔で内陣の周囲を巡っている。2本の円柱の柱間にそれぞれ薄いレンガをアーチ状に組んで、ドームの荷重を円柱で受けている。
『イタリアの初期キリスト教聖堂』は、この2本1組の柱が横に並ばず縦方向に、すなわち円の中心から放射状に並んでいるところが通常の組柱(カプルドコラム)と大きく違うところだ。そしてこの2本1組の柱の上に、エンタブラチュアが載っている。このエンタブラチュアは、4世紀初めの初期キリスト教建築が古典ローマの構成法に未だ強く依存していることの証拠ということになるが、意匠論的に見れば、円形の形態の持つ集中と放射の力が、この宙に浮かぶ特異な要素によって示されている面白さにあるという。
初期のキリスト教建築なのに天井が高いなあなどと思ったが、円形の平面からドームに移行するというのは、パンテオンと同じではないか。小パンテオンの外壁の下部が組柱になり、外側に周歩廊が付けられているようなものだ。
帝政ローマ後期といえども、大建造物を造った技術が伝わっていただろうから、この程度の高さやドームなど、特に難しくもなんともなかったのだ。
『建築と都市の美学イタリアⅡ』の写真は、このようにヴォールト天井の壁面が目映いばかりに金色に輝いている。果たしてこれはゴールド・サンドイッチ・グラスのテッセラを地に使った、金地モザイクなのだろうか。しかし、他の本の図版では、どうも金地ではなさそうだった。何時の日かこの廟堂に入って、それを確かめたいと思っていた。それが今日実現したのだった。

周歩廊のヴォールト天井を見上げると、それは金地では決してなかった。白っぽいテッセラを地に、単一の色のテッセラで文様を表しているようにしか見えなかった。カメラやビデオのレンズを通してズームしていくと、単彩ではなく、他の色も浮かんでくる程度だった。

ドーナツ状の壁面にモザイク装飾があり、円柱の延長上にモザイク装飾面どうしの仕切りの帯がある。仕切られたモザイク装飾面は12あることになる。
『世界美術大全集7西欧初期中世の美術』は、周歩廊天井にも、奧の一区画を除き、円柱間の各アーチ及び各壁龕と対応して11区画に分割されたモザイク装飾があるという。
1区画モザイク装飾のない箇所があるらしい。入口側から見上げると、正面の図案を中心に、同じパターンが左右対称に並んでいるようだ。ここからは7面見えるが、いったい何種類の図案あったのだろう。
ここが入口を入った北東の部分。反時計回りに周歩廊を巡っていく。
『地球の歩き方ローマ』に、教会を入ると、すぐ左側に照明機械があります。機械に50セントの硬貨を入れると3分程明かりがつき、モザイクをよく見ることができます。使えるのは硬貨のみですとあったので、50チェント(cent)硬貨を何枚か集めていた。しかし、硬貨を入れても明るくならなかった。機械が故障しているみたいだった。
ヴォールト天井10mくらいの高さがあった。高い上に暗いので、残念ながら写真はピントの合っていないものが多かった。
平面図にもあるように下の方小さな壁龕が並んでいるが、半時計回りに1/4周ほど進んだところの壁龕は、他のものよりも高く、その半ドーム形の頂部(矢印)にもモザイク壁画が残っていた。
パターン1
4つの十字形の間に八角形が置かれる。2つの十字形の2辺と2つの八角形の1辺、計6辺でひしゃがった六角形ができている。それぞれの図形の内側にはいろんな文様がある
パターン2 
菱形が十字を構成し、4つの菱形の間には4点星四角形ができている。その中にもくねくね曲がった十字が表されているように見えるが、それは4本の曲がった線の出る円形のものに4頭のイルカが四方から集まっているのだ。
各図形の内側の文様が少しずつ異なるのと、図形が小さいが、大同小異で、パターン2と同じだと見てよいだろう。パターン1の両側にパターン2がある。
パターン3
色のグラデーションのある帯状のリボンがくねくねと曲がりながら小円と大円を規則正しく作っている。小円には葉のようなもので十字が構成され、、大円の中は有翼の天使や人物が様々な方向に描かれる。小円4つとと大円4つの間にはいろんな鳥がいるが、中には羊もいる。
それぞれのパターン2の両外側にパターン3がある。
ここで突然コスタンツァ廟が真っ暗になってしまった。故障していると思っていたコイン式の照明機械はちゃんと機能していたことがようやくわかった。ほぼ手探り状態で入口まで戻り、50チェント貨を入れると再び灯りが点った。当時の人々はどのように明るさを保ったのだろう。

パターン4
4隅からのびた葡萄唐草、中央には胸像、葡萄の蔓の中には童子や鳥。両端(ヴォールト天井の両側下部)には、牛車で葡萄の実を運ぶ童子と建物の中で葡萄酒を作る童子たち。豊穣を表しているのだろうか。
『光は東方より』は、葡萄唐草の中央に女性胸像を描き、四隅に収穫した葡萄を運び、搾る童子たちを表した部分もある。これらのモティーフや情景描写は、当時の世俗建築を飾る床モザイクに一般に認められるもので、キリスト教美術が創り出したものではないという。
また、『世界美術大全集7西欧初期中世の美術』は、牧歌的な情景の中央に描かれた女性胸像は、この墓廟に埋葬された皇女コンスタンティナと見なしてもよいであろう。いわゆる円形肖像(イマゴ・クリペアータ)形式の死者肖像は、当時のキリスト教徒の石棺浮彫りにも数多く認められるものである。コンスタンティナの顔にみられる絶妙なハイライトの使用や、青から褐色へと変化するニュアンスに満ちた陰影表現など、ヘレニズム美術の伝統に根差した自然主義絵画が、当時も根強く生き続けていたことを示すという。
これが、この廟堂の主、コスタンツァだったとは。青から褐色へと変化していくのまでは見えなかった。
それぞれのパターン3の外側にパターン4が配されている。
パターン5
ほぼ同じ大きさの円が一面に並んでいる。円の中には全身の人物像、胸像の他にやっぱり十字架を思わせる葉文様などが表されている。4つの円の間にも何かが赤い色で描かれている。
これは両パターン4の外側に配される。
これで9面、5種類のモザイク装飾を見た。

コスタンツァ廟の周歩廊天井モザイクについてはこちら  

※参考文献
「建築と都市の美学 イタリアⅡ神聖 初期キリスト教・ビザンティン・ロマネスク」(陣内秀信 2000年 建築資料研究社)
「建築巡礼42 イタリアの初期キリスト教聖堂」(香山壽夫・香山玲子 1999年 丸善株式会社)
「世界美術大全集7 西欧初期中世の美術」(1997年 小学館)
「NHK名画の旅2 光は東方より」(1994年 講談社)