お知らせ

イスタンブールでミマールスィナンの造ったモスクを見ていて、その前はどんな形のモスクだったかが気になって、オスマン帝国の古都を旅してきました。最後にはまたイスタンブールを訪ねます。 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2013年11月21日木曜日

オシオス・ルカス修道院3 主聖堂(カトリコン)2 身廊


ナルテックスのパントクラトールのキリストの下を通って身廊に入ると、両側に柱とそれによって区切られた空間があるので狭く感じる。

身廊の柱を過ぎて正方形平面に入った所で視界が開けた。ドーム下の窓や南壁の窓から光が射し込んで、急に明るくなったのだった。
身廊のドームの向こうに後陣の金地モザイクが浮かび上がっている。
ビザンティン教会では、後陣の中には聖職者以外は入れない。上方まで厳重に壁(イコノスタシス)を造って、全く何も見えず、身廊もずっと暗いという教会もあるが、ここでは上方も中央の王門も開いている。このようなものはテンプロンと呼ばれている。
後陣には小ドームがあって、その奥に半ドームがある(上図緑色部分)。
小ドームは平たく、四隅から立ち上がったペンデンティブに支えられている。
聖母子像
イコノクラスムが終わった直後、コンスタンティノープル、アギア・ソフィアアプシスの半ドーム玉座の聖母子像のモザイクがつくられたのが867年、その後南玄関上のリュネットに聖母子とコンスタンティヌス帝とユスティニアヌス帝のモザイクが奉献されたのが10世紀末。後者に似ているかな?
『NHK日曜美術館名画への旅3天使が描いた中世2』は、オシオス・ルカス修道院のモザイクの年代は、最近の研究で1040-50年頃とされ、宮廷ではなく修道院自体が注文主だとする説がある。数多くの聖人像が描かれ修道院的色彩の濃い装飾であることから、この地方の有力者で修道院長だったセオドロス・レオバコスをその指導者とする説が有力である。ここのモザイクの人物は、古典様式のダフニと異なり、大きな頭のずんぐりとしたプロポーションで、太い輪郭線を持つ。線や同心円状の幾何学的衣文線により、肉体の立体感は失われているという。
時代が少し下がるし、地方作のようなので、比較しても仕方がないか。
『THE MONASTERY OF THE HOSIOS LOUKAS IN BOEOTIA』(以下『MONASTERY』とする)は、ペンテコステ(聖霊降臨)の日は、後陣の浅いドームに表される。12使徒は金地の背景に白い衣を付けて坐っている。ドームの中心には、聖霊が降りてくることを示す玉座の支度とハトが描かれているという。

そして身廊のドーム(上図赤部分)

驚いたことに、オスマン帝国のスレイマン大帝時代に活躍したミマール・シナンが、イスタンブールのリュステムパシャ・ジャーミイ(1561年)を建立した時に創り出したと思っていた、8つのペンデンティブによるドーム架構が、すでにここでは展開していた。正方形の四隅のスキンチと、それぞれの間の4つの空間とで8等分し、それぞれの接点から小さなペンデンティブが立ち上がっている、無理のない構造だ。
それは、後陣の浅いドームが4つのペンデンティブの上に載っているのと比較するとよくわかる。それにしても、この90度に折れた壁面からどのようにして半円形の曲面を造り出したのだろう。
リュステムパシャ・ジャーミイについてはこちら

『世界歴史の旅ビザンティン』は、16世紀末の地震で、ドームのモザイクは剥落し、現在は洗練されないフレスコでパントクラトールが描かれている。
スキンチには「受胎告知」「降誕」「神殿奉献」「洗礼」が描かれているという。
受胎告知は失われたまま。
降誕
グラデーション(暈繝)された青い天空から4本の光が生まれたばかりのキリストに降り注いでいる。マリアはキリストの頭に手を当て、その後ろに小さくヨゼフが表される。
1100年頃と同時代のダフニ修道院の降誕図
飼い葉桶の中のキリストをのぞき込むのは山羊と牛。
それについて木戸雅子氏は、4世紀の教父は降誕を預言する「イザヤ書」の箇所をこう解釈する。すなわち雄牛は律法に縛られているユダヤ人、ろばは偶像崇拝の罪を負っている異教徒、その間に彼らをそれぞれの重荷から解放する神の子が横たわっているというのであるという。
『MONASTERY』は、降誕図は身廊で唯一自然風景を表している。そして別の主題も加えられている。それはマギの礼拝と産湯である。この画面でマリアは大きく表され、マギたちや羊飼いたちは小さく表現されているという。
異時同図となっていて面白い。
神殿奉献
同書は、神殿の飾り天蓋が金地に表される。半円の中でヨゼフとシメオンの着た白い衣が、マリアと預言者アンナの青と赤の着衣と対照的で、単純な色彩でバランスよく構成されているという。
洗礼
人物像は同じレベルで一列に配置されている。川の水が装飾的でキリストの体の胸まで覆い、金の刺繍のある布が天使達の手を覆っているという。
暈繝に表された天空から神の右手が出て、聖霊のシンボル、ハトがキリストの頭上に降りている。
ヨルダン川の水紋の表現がさまざまで面白い。

南袖廊の交差ヴォールト
東の43:キリストのパントクラトール、44:ウリエル、45ザカリアス、46:ラファエル
キリストの下の壁面には聖母子像。
どちらも金箔ガラス・テッセラで衣文や柄が表されている。


オシオス・ルカス修道院2 主聖堂(カトリコン)のナルテックス
                            →オシオス・ルカス修道院4 パナギア聖堂

関連項目
キリスト降誕図の最古は?
キリスト降誕について
リュステムパシャ・ジャーミイ2 ドームの下は8つのペンデンティブ
アヤソフィア12 最後のモザイクはコンスタンティヌス帝とユスティニアヌス帝
オシオス・ルカス修道院5 クリプト
オシオス・ルカス修道院1

※参考文献
「世界歴史の旅 ビザンティン」 益田朋幸 2004年 山川出版社
「THE MONASTERY OF HOSIOS LOUKAS IN BOEOTIA」 HIERONYMOS LIAPIS 2005年 ATHENS
「NHK日曜美術館名画への旅3 天使が描いた 中世2」 1993年 講談社