お知らせ

イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2017年4月17日月曜日

マスジェデ・ジャーメ2 西翼


191南イーワーンから中庭に出て292西イーワーンに向かう。
『ペルシア建築』は、中庭(約60X70m)を囲んで、アーケード状の回廊がめぐっている。回廊はアーチを上下二層に重ねた開放的な形式で、淡黄色の煉瓦からなる軀体の表面にファイアンス(彩釉タイル)のモザイクが施してあるという。
平面図(『GANJNAMEH7』より、番号は『ペルシア建築』に記載された、1931年にEric Schroederが作成した平面図より)

あいにく修復中。
西イーワーンにだけ、マスジェデ・イマームでも見かけた監視塔のようなものがある。ミナレットの方が高いので、監視塔なら造る必要がないのに。
ここも南イーワーンと同じ時期に建立されたので、無釉レンガとコバルトブルー・黒に混じって白いタイルも使ったモザイクタイルでムカルナスが装飾されているが、ムカルナスの架構の仕方も、文様もそれぞれ異なっている。
詳しくは後日

479の小さなイーワーンから礼拝室へ
立面図(『GANJNAMEH7』より)

平面図(同書より)で見るとおり、小さなシャベスタンである。

292西イーワーンの北壁に接したこの礼拝室(シャベスタン)は、イル・ハーン朝のオルジェイトゥ(ウルジャイトゥとも呼ばれる、在位1304-16年)が造立した。
何故入ってすぐにこの南面全体を写さなかったのか自分でも理解し難いが、ここもまた部分の写真しかない。
中庭に近い方から、説教壇(ミンバル)。幾何学文様の浮彫がある。
イランで最も美しいとされるミフラーブは浮彫漆喰。植物文だけでなく、いろんな書体のインスクリプションがあるという。
詳しくはこちら
オルジェイトゥはシーア派に改宗したということで、このミフラーブ前にも、イマームが信徒よりも一段低い位置から説教するための凹みがある。
その西側にもミンバル。
『GANJNAMEH7』(1999年)に礼拝室の図版があった。古いけれど有り難い。
オルジェイトゥはイラン北部スルタニーエにイルハーン朝の新たな都を造り、その中心に自らの墓廟も建立した。最初はタイルで全面を覆い、1313年に何故か漆喰装飾で覆ってしまつたという。
現在は漆喰が剥がれてタイル装飾が露出した部分もあるが、独特の漆喰装飾もよく残っているが、このミフラーブの細工とは全く異なるものである。
オルジェイトゥ廟についてはこちら

ミンバルは西側の方が素晴らしい。奥に見える質素な木戸は、おそらく西イーワーンへの出入口だろう。
幾何学文の中に植物文というイスラーム独特のデザイン。絡み合う細い蔓草が精密に浮彫されている。同じ形の枠には同じ文様が彫り込まれているが、一つ違うものを見つけた。後補なのか、中央アジアでよく言われる「完璧なものは嫉妬を招くので、一つだけ不完全にしておく」という風習が、イランでもあるのだろうか。

ミフラーブ上の311ヴォールト架構 15世紀(オルジェイトゥは14世紀初頭の王なので、この天井架構は後補でティムール朝期)
深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態は、傘-斜行-傘としている。
斜行させた矩形の中で、少し天井を高くして、更に内側に矩形を斜行させ、その中に浅く凹ませた矩形をのせる。
続く312(半分しか見えていない)はヴォールティングの諸形態では傘状ドーム、15世紀という。
後方のドーミング・ヴォールト、313314315も15世紀。
313は6卍
314は傘・斜行・傘
315は中央が6点星
その下側。
ここで気になるのは、尖頭アーチの側面や西壁に並んでいる平レンガ。ただ焼成しただけとも思えないが、釉薬が掛かっているというほどでもない。まさかラスター彩では・・・

その後地下へ。
そこは、イマーム広場のマスジェデ・シェイフ・ロトフォッラーの女性用地下礼拝堂にも似た地下礼拝堂だった。一般の信徒用のため、タイル装飾はない。
『GANJNAMEH7』は冬の礼拝室としている。現在でも礼拝は行われているようで、絨毯が敷き詰められている。
ミフラーブは見当たらないが、南の方に窓が見える。
梁間は3つはありそうで、なかなか広い。ヴォールティングの諸形態サファヴィー朝時代に建てられたという。
上に増築するのは簡単だが、地上の建物の下に新たに礼拝室を造るのは難しいのでは。
奥の部屋の照明のおかげで、明かり取りの窓に組子があるのが見える。組子はサファヴィー朝の頃からかな?
検索してみると、日本の最古のものは、なんと、法隆寺金堂などの卍崩し高欄だった。

地上階に戻り、礼拝室北側の狭い通路を通っていく。
236のドーミカル・ヴォールトは2段のラテルネンデッケにも見える。
その先は礼拝前に身を清める部屋だった。
4つの尖頭アーチとスキンチの凹面で八角形ができ、それが持送りで中央の八角形に。その上は明かり取り窓で、丸い穴のたくさんあいたムカルナス状の曲面が4つ。
そして出たところが中庭なのだが、このドームが234の平面図には見えない。
この礼拝室を建立したオルジェイトゥは、再び登場しますが、それは、ずーっと先のことです。

   マスジェデ・ジャーメ1 南翼←   →マスジェデ・ジャーメ3 北翼

関連項目
マスジェデ・ジャーメ オルジェイトゥのミフラーブ
マスジェデ・ジャーメの変遷
マスジェデ・ジャーメ4 東翼
マスジェデ・ジャーメ チャハール・イーワーン


参考サイト
金沢大学学術情報リポジトリより 深見奈緒子氏のヴォールティングの諸形態 1998年

参考文献
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」 1999年 小学館
「GANJNAMEH7  CONGREGATIONAL MOSQUES」 1999年
「イスラーム建築の見かた」 深見奈緒子 2003年 東京堂出版