アクダマル島に上陸。
『世界美術大全集6ビザンティン美術』は、現在のトルコ東部のヴァン湖は、10世紀初頭にはアルメニア王ガジク・アルヅルニが支配するヴァスプラカン王国の中心をなしていた。南の湖畔には防壁に囲まれた宮殿が立ち並び、その一画にこの聖堂が建てられた。すべてが廃墟と化した今、この聖堂のみが当時の栄華を偲ばせるという。
船着き場から教会までの間に宮殿があったとは。
アーモンドの木々の間を縫って教会に近づいていくと、次第に石造りの教会の表面に浮彫があるのが見えて来た。
この教会はアルメニア教会です。アルメニア王国のガギクⅠが915年に建てました
今では使われていませんが、年に一度アルメニアから信者がやってきて、ミサを行っています
一般にキリスト教会は西に正面入口がある。写真を撮っている人の横にある小さな開口部が入口?
しかし、Kさんはその前を通り過ぎて、北側に回った。
まず北壁から見学する。日陰で薄暗い上に、アーモンドの木と周りの建物が邪魔して全体が撮れない。
四面の破風の頂点には四福音記者像、その下には実り豊かな葡萄の木に人や動物を織り込んだ装飾帯、その下部には円形のメダイヨンで囲まれた胸像など、そして最下層には聖人や天使など大型の像が刻まれているという。
ビザンティン美術では、聖像破壊運動と言われているイコノクラスム(730-843年)があったために、初期の美術がほとんど残っておらず、終結後も彫像や浮彫で宗教的な題材を表すことはなかったので、イスタンブールでアヤソフィアのモザイク壁画をじっくりと見学してきた後にこのような浮彫を見るのは新鮮だった。
宮殿などが残っていないという割には、教会を見るには邪魔な建物が多い。これらは後世に建てられた教会の遺構らしい。
『Aghtamar A JEWEL OF MEDIEVAL ARMENIAN ARCHITECTURE』の平面図によると、教会が建立された後に、周りに様々な建物が付け加えられたという。
破風には福音書家の聖マルコ。
建物の縁を飾る文様帯に動物や人の顔が並んでいて、いつかゆっくりと見て回りたいと思っていた西欧のロマネスクの教会(11-12世紀)が突然目の前に現れたかのように錯覚しそうだった。しかし、ロマネスク教会とは形が違う。
下の葡萄唐草の文様帯も独特だ。
浮彫を見ていくと(あまりにも多いので、「天使」としか書かれていないものは揚げていない場合があります)、
西端から、①預言者アモス②逆立ちした2頭のライオンに挟まれた預言者ダニエル③預言者ハバククの髪を掴む天使、続く3人は『ダニエル書』の④アザリア⑤ミシャエル⑥ハナニア
ダニエルも左の3人も両腕を挙げてオランスの姿勢をとっている。
『世界美術大全集7西欧初期中世の美術』は、両腕を挙げて祈るオランスは、救済された魂一般の象徴という。
⑦預言者ダビデとライオン⑧ブドウを食べるクマ⑨牡牛を襲うライオン⑩2頭のライオンと1匹のキツネ⑪ライオンを仕留める男などが表される。
⑫縛られた人を殺す聖ゲオルギウス⑬豹を殺す聖セルギオス⑭竜を退治する聖テオドロス
聖人が様々な悪を退治している場面を表しているようだが、ギリシア正教では竜を退治するのは聖ゲオルギウス、聖テオドロスは蛇を退治するのではなかったかな。
⑮生命の樹、4本足のヘビとイヴ
4本足のヘビは撮れなかった。イヴはほとんど残っていない。
⑯アダムとイヴ
⑰預言者イザヤ⑱ユダヤの王ヘゼキア⑲ラクダ⑳野ウサギを襲うワシ㉑2羽の孔雀
続きは2:礼拝堂(13-14世紀)のおかげで見えなかった。
東壁へ回ると日が当たって浮彫がよく見える。
破風には聖ヨハネ。
北端から、㉒預言者エリヤ㉓サレプタ㉔聖トマス
聖トマスだけが十二使徒、他は創世記に登場。
㉕ニシビスの聖ヤコブ
㉖聖タデウス? 十二使徒の聖タダイ
㉗山羊㉘豹㉙ライオン
㉚聖グレゴリオ㉛洗礼者ヨハネ㉜ライオン
ライオンというよりも犬のようだ。
人物または聖人が同じ大きさで並んで表されることもあるが、少し上に表されたり、大きさが違っていたりする理由は何だろう。
※参考文献
「世界美術大全集6 ビザンティン美術」(1997年 小学館)
「世界美術大全集7 西欧初期中世の美術」(1997年 小学館)
「Aghtamar A JEWEL OF MEDIEVAL ARMENIAN ARCHITECTURE」(Brinci Baski 2010年 Gomidas Institute)