西ナルテクスへ入ると、まず、今までどこにも見たことのない鮮やかな色のジグザグの帯が目に入った。その帯は交差ヴォールト天井を中心からそれぞれの隅に広がってる。
交差ヴォールトとこの帯とで、天井の曲面が複雑さを増している。
ナルテクスに残る壁画とその位置図(『世界美術大全集6ビザンティン美術』より)
以下の説明は『Trabzon The Frescoes of the Hagia Sophia』より(引用箇所はこの色で示しています)
⑦4福音書家とその象徴、それぞれが聖書を持っている。
上から時計回りに。
ルカ:牡牛、犠牲と奉献と強さの象徴
ヨハネ:ワシ、空の象徴、そして太陽に向かって真っ直ぐに見ることができると信じられている
マルコ:ライオン、勇気と王室の象徴
マタイ:人または天使、人間性と理性の象徴
⑧身廊側の壁面
一番上のアーチ型の区画:受胎告知
マリアの下:キリストと新約聖書、左上のICと右上のXCはどちらもキリストを表す
『世界歴史の旅ビザンティン』は、この聖堂の壁画は、中期と後期のビザンティン美術を橋渡しする存在といえよう。「神殿における12歳のイエス」のイエスや「受胎告知」の大天使ガブリエルなどの衣には、12世紀末のマニエリスム的な誇張の名残が見られるという。
右のマリアの衣服にはそれが見られない。人物によって衣服の表現を使い分けている。
一方各場面に描かれた建築物の構成や人物の配置には、三次元的な空間を表現しようとする意欲が見られ、コーラ修道院などを予告するという。
確かに、マリアの背後の建物や干すの場面の建造物には立体感がある。
そして、5色の石を積み上げたようなジグザグの帯もまた、立体的に見えるように描かれている。
⑨北ヴォールト天井
奥のアーチ型の区画:悪魔に心を奪われた子供が地面に横たわり、その母がキリストに救いを求めている。キリストの背後の人物は父親だろう。
左壁上:神殿で教えるキリスト
毎年キリストの両親は過ぎ越し祭にエルサレムに行った。12歳の時、マリアとヨセフは帰途についたのに、キリストはまだエルサレムにいた。マリアとヨセフが探しに戻った3日後、神殿の中庭でキリストを見付けた。キリストは教師たちの中にいて、話を聞いたり、質問をしたりしていた。
左壁下:生まれつき目が見えない男の目を開けるキリスト
洗礼
残念ながらヨルダン川が見えない。
背後の岩山の表現も、誇張されているようでもあるし、三次元的な表現のようでもある。
右壁上:キリストの最初の奇跡、水をワインに変える、カナの婚宴
テーブル中央で、ワインはなくなったが、ワイン壺は6つあるとマリアから耳打ちされるキリスト、そして左端でワイン壺に水を満たすよう指示するキリストと、異時同図になっている。
⑩南ヴォールト天井(写真の色や明るさの違いは、カメラの違いによるものです)
奥のアーチ型の区画から右壁:5000人に食糧を与える
群衆が食べ物を求めているのに5個のパンと2匹の魚しかないと使徒たちが言った。キリストは草の上に座るよう言って、その手からパンと魚を使徒たちに渡し、使徒たちが人々に渡していくと、全ての人は食物を食べることができた。
左壁上:水上を歩くキリストと嵐を収めるキリスト
左:5000人の人々に食糧を与えた後、キリストは使徒たちをボートに乗せ、湖の向こう岸に行かせようとした。風で波が高くボートは揺さぶられた。キリストが水の上を歩いてボートに乗り込むと、風は止んだ。
右:湖の向こう岸に行こうとすると突風が起こり、ボートに波が打ち寄せ、水浸しになった。キリストは眠っていたので使徒達が起こすと、キリストは起き上がり、風を静め、波に鎮まるように言った。すると風は完全に収まった。
アヤソフィア近くの土産物屋で買ったガイドブックは小さな冊子だが、フレスコ画の様々な場面の丁寧な説明があって参考になった。
しかし、ナルテクスの天井のジグザグの帯については何も記述がない。
おそらく、彩色された複合柱を立体的に表現したものだろう。
※参考文献
「世界美術大全集6 ビザンティン美術」1997年 小学館
「Trabzon The Frescoes of the Hagia Sophia」Ísmaíl Köse Alí Ayvazoĝlu, Ayasofya Müzesi Yani