お知らせ

イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2013年12月16日月曜日

メテオラ5 ルサヌウ修道院


②ルサヌウ修道院を見学する。
『世界歴史の旅ビザンティン』は、現在の姿になるのは16世紀のことであるが、隠修士は早くからこの岩に住みついていたという。
道路から参道を登っていくのが一般的らしい。
『METEORA Itinerary』(以下『METEORA』)に1745年のルサヌウ修道院と周辺のスケッチがあった。
鳥が飛び、さえずる静かな環境の中、岩山を下りて農園を耕し、生活していた様子がうかがえる。現在は籠を吊るテラスの下には縦に窓の並ぶ構築物がある(メガロ・メテオロンにもあった)が当時はなく、下まで繋がっているはずの梯子は途中で切れて、上側の下端はロープで引っ張り上げている様子。

先ほどの大岩から見下ろしたルサヌウ修道院。
下の方には修道女たちの暮らする建物。聖堂は木造テラスの左に、他の建物に接して建てられている。ドームと後陣がこちらを向いている。
そこから少し戻ったところに、ルサヌウへの下りの参道がある。
木陰の道を下っていくのは楽だった。時には風化した岩が現れたり、
景色が開けたり(日向は暑い!)、
③バルラアム修道院を見上げたりしながら、
10分ほどで修道院が見えてきた。ここからは登り。2つの石の階段の間に斜めの橋がある。
木造の籠を吊るテラスの隣には、今でも途中までの梯子があった。
左を見下ろすと手入れのいき届いた庭。
結構な急勾配の階段。
下の道路には観光バスがいっぱい停まっている。ビューポイントで眺めを楽しむ観光客と、ルサヌウへ登ってくる人達のバスが入り混じっている。
橋を渡って、

中に入ると撮影禁止。ここでもまたズボンの上から巻きスカートを着て見学、暑かった。
どうせ巻きスカートを着るのなら、この人のように半ズボンで良かったかも。

主聖堂(カトリコン)
同書は、主聖堂は1545年の建立、教会はキリストの変容に捧げられている。アトス式の2柱式内接十字形で左右の穹窿部分は聖歌隊席。中央のドームは単葉の窓が巡る多角形。
エソナルテックス(内部拝廊)は身廊の前にあり、大きなドームが架かるという。
やはり内部は暗く、くらい背景色のフレスコ画のため、より暗く感じた。
そして小さい。小人数の修道士たちだけのための教会なら、これでも十分な大きさだろうが。
『世界歴史の旅ビザンティン』は、内部のフレスコは1560年の部分と68年の部分が銘文によって知られる。という。
絵画は16世紀後半、クレタ派(『METEORA』より)という。

玉座の準備
『METEORA』は、ナルテックスの身廊への通路上はキリストの再臨の図で埋め尽くされている。
その中の「玉座の準備」。聖母と洗礼者ヨハネが跪き、この画面の上方にキリストがいるという。
メガロ・メテオロンのフレスコ画もそうだが、ラピスラズリの濃紺の色ではない。金地モザイクが高価なのでフレスコ画にしたというが、ラピスラズリもかなり高価な顔料のはず。おそらく代替の顔料か染料を使ったのだろう。
聖母被昇天(キミシス) 身廊入口上
ビザンティン美術では、キミシスは独立した主題として描かれてきたが、面積の関係からか、上側には一画面天使たちに天に導かれるマンドルラの中に坐した聖母=聖母の被昇天が描かれる。
キミシスだけを見るなら、イスタンブールのコーラ修道院(1316-21年、現カーリエ博物館)の構図に似ている。
キリストのマンドルラの光線とキリストの着衣が、金箔モザイクを模した線で表されている。
これもビザンティン教会ではよく描かれる「十字架の両側に立つコンスタンティヌス帝と、エルサレムでキリストが磔られた聖十字架を発見した母のヘレナ」
衣服は膝の辺り以外はほぼ偏平に描かれる。隈取りのある顔も生気がない。

見学が終わったら、今度は崖下へ。下から汗を拭き拭き登ってくる人たちもいる中、運転手のコスタスさんの配慮で楽できる。
そういえば、このコスタスさんの本名は、コンスタンティヌスといって、キリスト教を公認し、上の図で母ヘレナと共に十字架の脇に立つ人物と同じだった。
木漏れ日の中を歩くのは快適。

『世界歴史の旅ビザンティン』は、昨今は「世界遺産」に登録されたこともあって観光客がふえ、それをきらった修道士はアトスに戻ったりしているようであるという。
しかし、アトスは現在でも女人禁制なので、修道女が逃れる場所はない。あの小さな花園が彼女たちに残された最後の楽園なのかも。

メテオラ4 見下ろす景観←           →メテオラ6 カランバカの聖母の眠り聖堂

関連項目
キミシスはギリシア正教とアルメニア教会では左右逆
アニ、聖ゲオルギウス教会の壁画にササン朝の意匠
メテオラ3 メガロ・メテオロン2 主聖堂(カトリコン)の壁画 
メテオラ2 メガロ・メテオロン修道院1
メテオラ1 奇岩を縫う道から修道院を眺める


※参考文献
「世界歴史の旅 ビザンティン」 益田朋幸 2004年 山川出版社
「METEORA Itinerary」 D.Z.SOFIANOS 1991年 Holy Monastery of Transfiguration