正面入口から入って、最初に右の壁面を見上げた。そこには玉座の聖母子が大勢の天使に囲まれていた。
その上は天井になるのだが、聖母子を祝福している人物描かれている。
この北壁面は下の方が壁画が剝がされて、古い壁画が現れている。
スメラ僧院の歴史を考えると、壁画が傷むとその上に漆喰を縫って新たに絵を描くということが何度か繰り返されたことだろう。
漆喰が古い絵の上に定着し易いように、凸凹をつけようと壁面を彫っているのが残念。ここにも群像が描かれていたのだろうなということしかわからない。
天井は洞窟をそのまま使ったか、いくらか整えた程度の歪んだ面に絵を描いている。
「パントクラトール」と呼ばれるキリストの半身像が丸い枠内に表されている。ドームに表されることが多いので、平たい天井に円形の枠を描くことによって、ドームからキリストが見下ろしているように感じたのだろう。
天井のパントクラトールの奥には、聖母子の上半身が両手を広げて表されている。
面白いことに、マリアの両手先には蔓草がくるくると巻いている。蔓はイチゴの実を付けながら、くるりと弧を描いて先に葉を付ける。その葉は蓮のようで、蓮の葉の上に後光を戴いた聖人が一人ずつ描かれている。蓮華化生を思わせる。
その奥にも蔓草が描かれ、蔓草の茎は奥壁から出ているのかなというところで、壁画が剝がれてわからなくなる。
南側は洞窟の壁のままで、絵はみにくかったし、わからない場面ばかりだった。
これは聖母マリアの1場面。
南入口に近い壁面には2頭のライオンに噛み付かれているダニエルが描かれている。
その上の装飾帯やダニエルの衣服の文様が丁寧に表されている。
その右上には翼を広げた大天使ガブリエル。
昼間に大天使ガブリエルが現れると世界が終末を迎えるといわれています
アニ遺跡のティグラン・ホネンツの聖ゲオルギウス教会の大天使ガブリエルは出口の上に描かれていた。
入口の窓の下は光が入って見づらいが、洞窟内の他の壁画とは色調が異なり、黒っぽい。
中央には台があってどうもキリストの磔刑の胴体から下が描かれていたらしい。後世に明かり取りに窓を穿ってキリストの腕や顔がなくなってしまったのではないだろうか。
従って、他の絵よりも以前に描かれたものだろう。
入口上のタンパンには何も描かれず、アーチ部分には聖人が2人表されていたようだ。
その上には植物文様が描かれている。
外からは船のように見えた出っ張りには入ることも、見ることもできなかった。